中東研究日本センター(以下JaCMESと略)は、2006年2月に当時アジア・アフリカ言語文化研究所(以下AA研と略)が実施していた特別教育研究経費「中東イスラーム研究教育プロジェクト」(2005-09年度)により、レバノン共和国の首都ベイルートに設立されました。
JaCMESはAA研の初の海外研究拠点で、国際的な共同利用研究施設として機能することを使命としています。2005年12月15日には、レバノン政府閣議で設立認可が決定され、2006年2月1日には開所式を行いました。
(1) 本拠点は主に次のような目的をもっています。
- 日本における中東研究の水準向上に資すること
- 日本とレバノンをはじめとする中東諸国との間の学術交流に資すること
- 中東研究に関する国際学術ネットワークの拡大・充実に資すること
(2) 本拠点は主に次のような活動をしています。
- レバノンをはじめ中東の研究者との国際的共同研究 → 接続する海としての地中海
- レバノンの政治・社会変動の観測 → ベイルート・ウィークリーレポート
- レバノンの学術・文化的活動の紹介 → ベイルートでの学術・文化活動の紹介
- 日本と中東の間の直接的な学術交流の推進 → JaCMES講演会
- 日本の中東に関する次世代研究者の育成 → ベイルート若手報告会
(3) メンバー
センター長:黒木 英充
センター特任研究員:
Japan Center for Middle Eastern Studies (JaCMES)
2nd Floor, Azarieh Building, A2-1, Bashura, Emir Bashir Street, Beirut Central District, LEBANON
TEL & FAX: +961-1-975851 (レバノン国内からは01-975851)
空港からのアクセス
ベイルート・ラフィーク・ハリーリー国際空港より自動車で最短約10分。
(日中は道路の混雑状況によりこれより長くかかります。タクシーならば料金30 USドル。)
所在地の中心性
レバノンの人々に「ダウンタウン」という呼び名で知られるベイルートの中心部のビジネス街にあります。レバノンの国会議事堂や首相府、日本大使館から徒歩5分ほどの場所です。この地区のランドマーク的な「アザリーエ・ビル」の2階にJaCMESがあります。同ビルにはベルギー大使館やカーネギー中東研究所なども入居しています。レバノン独立の象徴的空間である「殉教者広場」には徒歩1分、道をはさんで向かいにキリスト教マロン派のサン・ジョルジュ・カテドラル、その右側並びにスンニー派イスラームのアル・アミーン・モスクがあります。また左側並びにはローマ時代の石造列柱の遺跡があります。レバノンの古代からの重層する歴史と宗教的多様性を一望できる場所です。
開閉時間
月曜日から金曜日まで毎日(ただしレバノンの公休日をのぞく) 09:00-14:00
モナ・ブーアリアさん(Ms.Mona Bou Alia)が英語・アラビア語・フランス語で受け付けます。
設備
JaCMESには こちらの備品 があります。30人程度の会議・ワークショップ等のために使用することができます。
また無線LANを配しており、ノートパソコンの持ち込みによるインターネット接続が可能です。
2021年2月4日、レバノン南部にてレバノンの知識人ロクマーン・スリーム氏の遺体が発見されました。状況からして政治的な殺人と推定されます。
スリーム氏は2004年に研究機関UMAM Documentation & Research (umam はアラビア語で「母体的共同体」ummaの複数形)を立ち上げ、レバノン内戦の記憶を記録して社会に向けて公開するために、新聞や雑誌、政治的なビラに至るまで膨大な量の資料を収集し、デジタルデータ化されていました。そして将来レバノンにしかるべき公共資料館ができればそれらを寄贈するお考えでした。また出版社を設立し、ウェブジャーナルを発行し、ドキュメンタリー映画を製作し、展示会や講演会を多数開催し、貧困地域の教育支援にも携わっておられました。
JaCMESの活動にも、研究会議参加のほか、講演会のポスター作製や、企画のアドバイスや関係者の紹介など、様々な形で支援してくださいました。JaCMES若手報告会の参加者たちがUMAM D&Rを見学に訪れたこともありました。スリーム氏は2007年に2度、東京での研究会議のために来日され、広島平和記念公園も訪れました。
途半ばにして命を奪われたスリーム氏の無念は察するに余りあり、強い憤りを覚えます。このような政治的暴力を強く非難するとともに、レバノンにおいてこの種の暴力が繰り返されないことを切に望みます。
ロクマーン・スリーム氏のご冥福をお祈り申し上げるとともに、深甚なる敬意と感謝を捧げます。
JaCMES センター長 黒木英充
8月4日午後6時過ぎにベイルート港にて発生した大規模爆発事件は、ベイルートの広範な地域に対して激甚な被害を与えました。JaCMESの入るアザリーエ・ビルは議会や首相府も至近の場所にあり、町の中心を象徴する殉教者広場の斜向かいに位置しております。爆心地から1.4キロほどしか離れていなかったために猛烈な風圧を受け、窓ガラスが全壊し、頑丈なドアが破損して外れるなどの被害を受けましたが、幸い無人の時間帯だったために人的被害はありませんでした。
2019年10月から続く経済金融危機、7月後半以降のCOVID-19感染者増加の中で、死者190人以上、負傷者6500人、30万人ともいわれる人々の住宅が居住困難という大変な事態となりました。被害があまりにも広範囲で、公的・私的領域の多岐にわたり、広義の文化財的価値をもつ建物も含まれているため、復旧はなかなか進んでおりません。
しかし、JaCMESは事件発生後1ヶ月を経て、事務所所有者のMarie-Madeleine Sader さんとJaCMES秘書のMona Bou Alia さんの尽力により、損壊備品以外の修復がほぼ終わりました。
海外研究拠点が日本の学術全体の中でもつ意味と重要性は、9月1日付の日本学術会議地域研究委員会の提言においても強調されているところです。現地が多難な時期にあるからこそ、そこに定点として、研究や学術交流のための足場を確保することが大切だと考えます。
これまでご心配頂いた皆様に御礼申し上げますとともに、今後ともご支援をよろしくお願い申し上げます。
(JaCMESセンター長 黒木英充)