基幹研究「「記憶」のフィールド・アーカイビング:イスラームがつなぐ共生社会の動態の解明」は、多宗教・多文化の共生社会を維持してきたアジア・アフリカの諸社会を対象として、共生の動態を解明することを目指します。その際にムスリム諸社会の歴史と現在に見出しうる持続可能な社会のあり方に注目します。
そのために、人文学の領野においても急速に進展するデジタル・トランスフォーメーションを意識し、多様な「記憶」(過去の事象のみならず、個々人の経験や現代の諸問題に至る背景をも含む)のアーカイビングを礎とした文字情報・空間情報・画像情報の可視化・多角的分析を行います。それによって、現代世界におけるグローバル化の中での秩序の崩壊、宗教・宗派をめぐる問題に現れてきた種々の矛盾に向き合い、共生や寛容に目を向けることで、信頼関係を始めとした様々な「関係の回復」の可能性を検討します。
本基幹研究は、「中東・イスラーム圏における分極化とその政治・社会・文化的背景」(MEIS2、2016-2021年度)を発展的に継承しており、当面のあいだ、ウェブサイトもMEIS2のサイト上に運営します。その前身である2005-2009年度に実施された文部科学省特別教育研究経費「中東イスラーム研究教育プロジェクト」The Research and Educational Project for Middle East and Islamic Studies(MEIS)や、MEIS2の前半期2010-2015年度の課題「中東・イスラーム圏における人間移動と多元的社会編成」とも密接に関連しています。
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MEIS2 は、AA研の基幹研究「中東・イスラーム圏における分極化とその政治・社会・文化的背景」の略称です。本基幹研究が、2005-2009年度に実施された文部科学省特別教育研究経費「中東イスラーム研究教育プロジェクト」を発展的に継承するものなので、前身の略称 MEIS(The Research and Educational Project for Middle East and Islamic Studies)の第2段階という意味で、MEIS2としました。 その前半期 2010-2015年度には「中東・イスラーム圏における人間移動と多元的社会編成」を実施しました。
本基幹研究は、広く中東・イスラーム圏を中心に観察される人間移動と、ムスリム・非ムスリム、並びに諸民族間の織りなす社会関係とを連関させて、「多であること」の問題性と意味を追究します。そして現在各地で深刻化している分極化の問題に様々な観点から取り組むものです。
一般に近代社会科学は、社会を均質な要素による構成物と見なして分析を加える研究手法をとってきました。しかし今日の地球社会、とりわけアジア・アフリカ地域が提起するエスニックな紛争やそれをとりまくダイナミックな国際政治の現実を前にして、こうした手法は限界が明らかになっています。しかし多元的な社会構成を前提としつつ、その中に見られる多様な文化的個性を総合的に把握するモデルは未だ見出されていません。その一方で、アジア・アフリカなる枠組のなかから人々は自在に飛び出し、地球大の規模で活躍しながら、各地でさまざまな作用を及ぼしつつあります。
MEIS2は、上の問題が先鋭に現れている中東地域を中心に、東南アジアまでを含めたイスラーム圏を広く対象としながら、この問題解決に貢献することを目的とします。具体的には、多元的社会構成の歴史的生成過程、イスラームの規範的役割やネットワーク拡張機能、移民・難民を初めとする人間移動の攪乱的要素と社会の集団編成原理の相互作用、個人・集団の主体的アイデンティティ戦略と政治思想の連関などが主な問題となります。
AA研の二つの海外拠点(ベイルートとコタキナバル)における国際共同研究を軸としながら、歴史的文書・画像資料などの分析、新たな情報学的手法を駆使した蓄積・公開、関連分野の研究に従事する次世代研究者の育成にも当たります。
MEIS2のロゴマークですが、マークの左側部分の図柄は、三日月と陸海のフィールドのダイナミズムとをイメージしています。右側部分は、「中東・イスラーム」に対応するアラビア語al-Sharq al-Awsat wa-l-Islamと英語とが書かれています。ロゴマークのデザインは東京在住のパレスチナ人芸術家 ヴラディミール・タマリ(Vladimir Tamari)さんによるもので、アラビア語部分はタマリさんが開発された「エルサレム字体」AlQuds Fontで書かれています。
本ウェッブページは、MEIS2の活動内容をご紹介するとともに、直接連続する前身のMEISの活動成果も併せて見られるようになっています。
(黒木英充)
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