期間 | 2011-2013年度 |
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研究代表者 | 錦田 愛子(AA研) |
AA研所員 | 床呂 郁哉,三尾 裕子 |
共同研究員 | 伊藤 一頼,奥山 眞知,尾崎 俊輔,川村 千鶴子,湖中 真哉,近藤 敦,陳 天璽,辻上 奈美江,飛内 悠子,堀拔 功二,柳井 健一,山崎 望 |
越境する人々の直面する課題は、帰還をめぐる政治情勢や、滞在国におけるビザ・居留資格や労働許可など法的地位の確保、周囲の社会からの偏見・差別といった社会的問題など、多くの面で共通しています。一方で、国際的な人の移動の常態化により国家の存在が相対化されるなか、シティズンシップは人の帰属や移動に対して、どのような影響を及ぼしているのでしょうか。本研究課題では、国境を越える人の移動について、移民/難民という枠組み自体に再考を加えながら、シティズンシップの現状と潜在力に注目することで、今後の世界における主権とアイデンティティ、人権保障のあり方を模索していきます。
本研究課題のメンバーは、人類学、法学、政治学、社会学、歴史学など、多様な領域を専門とする研究者により構成されるのが特徴です。それぞれの専門の視点から、多面的に検証をおこない、シティズンシップをめぐる理論、制度と、各地域における移民/難民の移動の実践について、相互のかかわりや展開を明らかにしていきたいと考えています。
国民国家を構成単位とする近代以降の世界において、移民、難民の存在はこれまで、滞在国における国籍の付与、一定限度における市民権の容認、人道的見地からの人権保障などの対象として語られてきました。しかし超国家レベルの政体や交渉枠組みの拡大、また越境移動の活発化は、こうした人の動きを各国単位で対処されるべき個別の派生要素と捉えるだけでは不十分であることを示しています。本研究課題では、国民という資格と、それに付随するものと考えられてきたシティズンシップを、あえて切り離して考えることにより、現在実際に展開している複合的な市民、居住のあり方を解き明かしていきます。国籍なきシティズンシップとは可能なのか?実際に国籍やシティズンシップを取得した事例や、彼らのホスト国での位置づけ、シティズンシップとナショナル・アイデンティティとの関わりなどについて、制度と実践、理論と政策等のさまざまな側面から明らかにしていきます。
移民/難民に関するこれまでの研究は、国際政治学、法学、人類学など、各分野で個別に進められてきました。問題関心は分野によって異なり、国際政治学では越境移動が政策に与える影響を、法学では移民/難民の法的地位を、人類学では彼らの帰属意識や故郷とのつながりを主に扱うという傾向があります。本研究課題はそれらの研究成果を踏まえたもので、多様な方法論による視角の違いを明確化することで対象を総合的に捉え直し、移民研究、難民研究のそれぞれに対して新たな地平を開く試みといえます。移民/難民は国家や社会からどのように包摂され、また排除されているのか、その中核的問題ともいえるシティズンシップを対象とすることで、現代社会を形作る制度のあり方そのものも考えていきたいと思っています。