レバノン週報(2013年9月30日〜2013年10月6日)
先週は一時的に豪雨となるなど、「異常気象」とでも言うべき現象がベイルートのみならずレバノン各地で生じたが、今週は秋晴れの日が続いた。
こうした中で、4月に首相職に任命されたサラーム議員による組閣努力に関しては今週も様々な報道がなされた。レバノンの政治地図が大まかには「3月8日連合」勢力と「3月14日連合」勢力に二分される状況にあって、サラーム議員は自らやスライマーン大統領、ジュンブラート「進歩社会主義者党」党首らを「中立勢力」として想定し、これら三勢力の獲得ポスト数が同数(8)になる24人内閣を想定している。この構想に対しては、3月14日連合サイドが概ね了承しているのに対して、3月8日連合サイドは議席数に見合ったポスト配分を要求するという形で反対を表明しており、同連合は自らと3月14日連合が共に9つの閣僚ポストを持ち、「中立勢力」が6つのポストを獲得する形の24人内閣を提唱するに至っている。
以上のことから、相対立する3月8日連合と3月14日連合共に、24人内閣ということには同意しているものの、前者が提唱する「9・9・6構想」と後者が同意を表明している「8・8・8構想」では、内閣運営に大きな違いが生じるために争点となっているのである。つまり、3分の1を超える閣僚が辞任すると当該内閣は崩壊するというレバノン憲法第69条の規定に鑑み、「9・9・6構想」では3月8日連合と3月14日連合に対して、内閣の政策遂行に対する「拒否権」を与えてしまうことになるのである。故に、自らの手足を縛られたくはないサラーム議員は元より、スライマーン大統領も「8・8・8構想」を支持しているのであるが、3月8日連合サイドは「9・9・6構想」に拘っているようである。さらに、3月8日連合の主軸を成すシーア派組織「ヒズブッラー」がサラーム議員に対する批判を強めており、10月6日には同組織所属のファイヤード議員が名指しで非難を行った。
このように、サラーム議員とヒズブッラーの対立が深まっている状況では、組閣の早期実現の可能性がさらに遠のいたと言えようが、他方でスライマーン大統領はこれまでのレポートで報告してきた通り、速やかな内閣樹立を支持し、またレバノンの国軍の役割強化に取り組むなど、レバノンの安定化に尽力している。それ故、大統領職の任期切れが来年5月に迫る中、その任期を延長させようという意見も出てきている(レバノン憲法第49条の規定により再選は禁止されているものの、過去には憲法を一時的に改正して任期を延長したケースが存在する)。しかしながら、スライマーン大統領はシリア情勢に対する「非関与政策」を掲げていることから、とりわけヒズブッラーによるアサド政権支援の動きに対する批判を強めている。従って、レバノンにおける二大政治組織の一つであるヒズブッラー(もう一つはスンナ派組織「ムスタクバル潮流」)からのスライマーン大統領に対する支持が弱い状況では、再選に向けた動きには今後紆余曲折が生じるであろう。
なお、レバノンではこのように首班指名から内閣樹立に半年程度の時間を要することは珍しくなく、また過去においては議会が大統領を選出出来ずに長期間不在となったこともあった(スライマーン大統領が2008年5月に選出された際には、前年11月から大統領が不在だった)。こうした国家機能の麻痺状態はレバノン経済にとって決してプラスとなるものではないが、「正常な」政治プロセスが機能している時とそうでない時において景気状況が大きく異なるわけではなく、人々の生活はこうした政治的な「異常時」においても何とか機能しているのが実態である。