2013年5月

レバノン週報(2013年5月27日〜2013年6月2日)

2009年6月7日に実施された選挙によって選出された現職国会議員の任期は、本年6月20日をもって終了することになっていた。それ故、今月に実施予定とされていた国会議員選挙に対する関心がレバノン内では徐々に高まっていたが、その一方で同選挙をどのような選挙法に基づいて行うのかをめぐっては、コンセンサスが成立しない状態が続いた。

そこで、投票日が当初予定されていた6月9日から16日に延期されたものの、選挙法に関する合意が形成されなかったことから、ミーカーティー内閣は5月27日に、現行法に基づいて選挙を実施することを決定した。現行法は1960年に制定され、その後基本的には選挙の度に修正されてきているが、県ではなく、郡を選挙区の単位としていることが批判を受けている理由の一端にある。と言うのも、選挙区が広い地域をカバーしていないがために、地元の利益を代弁する議員が票を集めやすいことから、買収が行われやすい土壌を生み出しているからである。さらに、比較多数代表制に包含される全連記投票制によって全ての議員が選出されることから、一部の議員を比例代表制によって選出されるようにすべきであるとの見解も、国民のかなりの部分で支持を受けるようになっていた。

結局、ミーカーティー内閣が決定を下した5月27日の深夜までに、総勢706名の立候補者が内務省に届け出を行った。だが、シリア情勢がレバノンの安定をますます損なうようになっている上に、同国の政治勢力が「親アサド」の「3月8日連合」勢力と「反アサド」の「3月14日連合」勢力で二分されている状況に鑑み、国会議員選挙そのものを延期すべきとの意見も根強くあったことから、ビッリー国会議長は当初の予定通り、31日に国会を召集した。その結果、出席した議員97名(定数は128名)全員の賛成により、現職国会議員の任期が2014年11月20日まで延長されることになった。なお、5月31日当日は国会の前にあるカフェで昼食を摂ったが、夕方から始まる審議に備えて周辺は厳戒態勢が敷かれた。

このように国会議員選挙が延長されたことから、首相職に任命(4月上旬)されたサラーム議員による新内閣樹立が加速するかどうか、期待が持たれるところとなっている。実際のところ、国会議員選挙が行われると現内閣は辞任しなければならないため、組閣完了が6月以降にずれ込むのも致し方ないとの見方もこれまでは存在した。しかしながら、今後はこうした憲法上の制約がなくなったため、各政治勢力が閣内における勢力配分に関する見解の相違を解消できるか否かが、より一層重要となったと言えよう。

レバノン週報(2013年5月20日〜2013年5月26日)

ロケット弾が撃ち込まれたシャイヤーフ地区の光景。

サラーム議員はレバノンにおける国会議員128名の内、124名という圧倒的な支持を得て首相職に任命されたにもかかわらず、4月以来組閣に時間を要している。レバノンの政治勢力が「3月8日連合」勢力と「3月14日連合」勢力、及びその他の「中立的な」勢力から成ると大まかに区分け可能な状況において、新内閣の定員が24名ということにはコンセンサスが成立している。しかしながら、閣内の勢力配分に関する見解の相違が依然として解消されていないことが、組閣を遅らせている主要因となっている。こうした中で、今週はとりわけサラーム議員の動きに関する報道が少なく、水面下での微妙な調整が行われているとも思われたが、結局のところ組閣に向けての進展はなかったようである。

他方、シリア情勢のレバノンに対する余波に関しては、ベイルートにおいても大いに実感される事態が今週末に発生した。それは、シリア・レバノン国境からほど近く、また両国交通の要衝でもあるシリア側の町クサイルを巡り、アサド政権部隊と反体制勢力が激戦を繰り広げている中、レバノンのシーア派組織「ヒズブッラー」が政権側に味方する形で同地に戦闘員を送り込んでいるという文脈の中での出来事であった。事実、ヒズブッラーを率いるナスルッラー書記長が5月25日の「解放記念日」(2000年の同日に、イスラエル軍の南部レバノンからの撤退が完了)に、アサド政権擁護の姿勢を改めて鮮明にしたところ、同書記長の演説終了から半日も経過しない26日未明に、ヒズブッラーが拠点を有する南ベイルートにロケット弾が撃ち込まれたのである。現場は、南ベイルートの中でもそれほど「ヒズブッラー色」が強くないシャイヤーフ(シーア派教徒が多く住んでいるため、通称で「シーア」とも言われている)地区であり、筆者も何度か買い物で行っていたことから、朝のニュースで見慣れた風景が出てきた時には驚きを禁じ得なかった。シリアにおける反体制武装組織「自由シリア軍」が、国境管理の曖昧さを突く形でレバノン領内に拠点を有していることから、同組織が25日のナスルッラー演説に対する報復措置を取ったとの疑いが生じたものの、自由シリア軍サイドは即座に関与を否定した。幸いに死者こそ出なかったものの、シリア情勢の影響を直接受けた形の事件が首都でも発生したことの衝撃は大きく、報道でも大きく取り上げられることになった。だが、弊センターがある「ダウンタウン」や拙宅のある西ベイルートではいつも通りの静かな日曜日であった。

なお、シリアにおける対立構造が大まかにはアラウィー派主体のアサド政権とスンナ派主体の反体制勢力と見なすことが可能な中で、レバノン北部の都市トリポリにおいては5月19日以降、アラウィー派とスンナ派が武力対立を再燃させている。レバノン国軍の鎮静化努力が功を奏さなかったことから、週半ばの22日までに死者こそ14名に留まったものの、100名以上が負傷する事態となった。2011年3月にシリアで反体制運動が勃発して以来、同国の情勢の影響を受ける形での武力衝突がトリポリでは繰り返されてきたが、次第に激しさを増しているのが気にかかるところであり、5月22日から24日の3日間で負傷者は更に100名を数えた。

※ 写真:2013年5月撮影
ロケット弾が撃ち込まれたシャイヤーフ地区の光景。
5月上旬の週末に行ったときは、買い物客で賑わっていた。なお、奥の壊れている建物は、2006年戦争の際に、イスラエル軍の攻撃によって破壊されたもの。

レバノン週報(2013年5月13日〜2013年5月19日)

5月半ばにベイルートで開かれた「イラン・フェア」。

レバノンにおける国会議員128名の内、124名という圧倒的な支持を得て首相職に任命されたにもかかわらず、サラーム議員が組閣に時間を要していることはこれまでに報告してきた通りである。新内閣の定員が24名になる可能性が高いと言われてきた中で、レバノンの政治勢力が「3月8日連合」勢力と「3月14日連合」勢力、及びその他の「中立的な」勢力から成ると大まかに区分け可能なことから、サラーム議員はどの勢力も3分の1を超える閣僚数を保持しないことに重きを置いてきた。すなわち、各勢力共に8つの閣僚ポストを持つことが想定されたのであるが、他方で3月8日連合側は9つのポストを要求してきた。この背景には、3分の1を超える大臣の辞任が当該内閣の崩壊を導く、というレバノン憲法第69条の規定故に、仮に3月8日連合が8つ以上の閣僚ポストを有するならば、同連合に内閣崩壊の引き金を引くことを可能にさせるという事情が存在する。

サラーム議員は自らを「中立」と称しているものの、3月14日連合を率いるスンナ派組織「ムスタクバル潮流」と密な関係を有していることから、3月8日連合に属する一部議員らから「中立」ではないと見なされている。従って、3月8日連合サイドは政策遂行に際しての「拒否権」を有することを意味する「8プラス」の閣僚数に拘ってきたのである。

こうしたデッドロック状態の中で今週初頭には、サラーム議員が14名から成る新内閣案を5月14日にスライマーン大統領に提示するとの報道が出るようになった。だが、同案は3月8日連合側からの強い批判を受けたことから、撤回せざるを得なかった。サラーム議員が13日に、3月8日連合の重鎮でもあるビッリー国会議長を訪問したことが影響したのかどうかは定かでないものの、同議員はその後、24名の新内閣という当初のプランに回帰したと見られている。

なお、シリア情勢は難民問題を含めレバノンに様々な余波をもたらしているが、弊センター周辺でも時折、そうした影響を感じることが出来る状況である。イランでの参詣を終えて帰途についていたシーア派レバノン人11名が、シリア北部の都市アレッポで昨年5月に反体制勢力によって誘拐された事件に関しては、昨年8月と9月に釈放された2名を除く9名が依然として人質に取られている状態が続いている。シャルビル内務相は5月15日に、人質解放に向けた楽観的な見通しを表明したが、人質の家族たちが今週はとりわけ活発に抗議活動を展開した。トルコ政府がシリア反体制勢力を支援していることから、オフィスが入っている建物に事務所を有するトルコ航空やトルコ文化センターが標的となり、紙つぶてが投げられることもあった。建物周辺が一時的に封鎖されたこともあったが、抗議活動は基本的には午前中で終了したので、勤務に大きな支障が出ることはなかった。

他方、シリア・レバノン国境からほど近く、また両国交通の要衝でもあるシリアの町クサイルを巡り、アサド政権部隊と反体制勢力との攻防が激しくなるにつれて、レバノン北部の都市トリポリにおける情勢が再び悪化した。シリアにおける対立構造が大まかにはアラウィー派主体のアサド政権とスンナ派主体の反体制勢力と見ることが可能な中で、トリポリではアラウィー派とスンナ派がシリア情勢の影響を受ける形で武力衝突をこれまでに繰り返してきた。3月以来、レバノン国軍の努力もあって比較的平穏であったものの、5月19日には対立が再燃するに至っており、今後の展開が気にかかるところとなっている。

※ 写真:2013年5月撮影
5月半ばにベイルートで開かれた「イラン・フェア」。
イランの工業製品を紹介するブースも多数存在していたが、ペルシャ絨毯のセクションは多くのレバノン人で賑わっていた。

レバノン週報(2013年5月6日~2013年5月12日)

サラーム議員はレバノンにおける国会議員128名の内、124名からの圧倒的な支持を得て首相職に任命されたにもかかわらず、組閣に時間を要している。その背景には、レバノンの政治勢力が「3月8日連合」勢力と「3月14日連合」勢力、及びその他の「中立的な」勢力から成ると大まかに区分け可能な状況において、各勢力共に3分の1を超える閣僚数を保持しないことにサラーム議員が重きを置いていることがある。と言うのも、3分の1を超える大臣の辞任が当該内閣の崩壊を導く、というレバノン憲法第69条の規定故に、サラーム議員は政策遂行に際して各勢力に「拒否権」を与えることを意味する閣僚配分に強く反対しているからである。これに対して、3月8日連合サイドは新内閣の定員が24名になる可能性が高いと言われている中で、8つ以上のポストを欲していると報じられている。

また、サラーム議員は各勢力に等分のポストを配分する意向であり、「中立的な」勢力を代表する人物としては自らに加えて、スライマーン大統領とジュンブラート議員を想定している。だが、サラーム議員は3月14日連合を率いるスンナ派組織「ムスタクバル潮流」に所属してはいないものの、同連合と密な関係を有していることから、3月8日連合に属する一部議員らから「中立」ではないと見なされている。加えて、3月8日連合を率いるシーア派組織「ヒズブッラー」がシリア領内に戦闘員を送り込み、アサド政権側に加担する形で公然と行動していることに対して、スライマーン大統領はミーカーティー暫定首相と共に、レバノン安定化の観点にからシリア情勢に対する「非関与政策」を推進していることから、名指しこそ避けているものの折に触れてヒズブッラー非難を行っている。従って、3月8日連合側がサラーム議員は元よりスライマーン大統領をも、「中立」ではなくて3月14日連合側の意向を汲む人物と見なし、両名に近しい人物が入閣することを警戒する状況となっている。

他方、ジュンブラート議員はシリア情勢を巡ってアサド政権との距離を置いているものの、同政権支持のスタンスを取っている3月8日連合、特に同連合の中核を成しているヒズブッラーとシーア派組織「アマル運動」からの入閣者がいないならば、新内閣には加わらないとの意向を表明している。しかしながら、アマル運動指導者でもあるビッリー国会議長は5月7日の発言に見られたように、スライマーン大統領とサラーム議員、ジュンブラート議員らが各々の関係者を入閣させることによって新内閣で影響力を持つことに反対しており、「中立的な」勢力をめぐる議論は一層解決の難しい問題となっている。

なお、ヒズブッラーのナスルッラー書記長は4月30日に引き続き、5月9日にもビデオ・スクリーンを通じての演説を行った。イスラエルが5月上旬に、アサド政権によるヒズブッラーへの武器供与を阻止する目的でシリア攻撃を2回実施したとされる中、ナスルッラー書記長は同政権擁護の姿勢を改めて表明すると共に、ヒズブッラーがより高性能な兵器を今後入手する可能性について言及した。イスラエルがシリアの武器管理・供与に関して神経を尖らせていることから、ナスルッラー発言は地域情勢の安定化に資するものではないと見なされている。

レバノン週報(2013年4月29日~2013年5月5日)

ベイルート・アメリカン大学正門近くにある、レバノン風サンドイッチの有名店。

レバノンにおける国会議員128名の内、124名からの圧倒的な支持を得て首相職に任命されたサラーム議員ではあるが、その組閣作業は依然として難航している。その一因として、サラーム議員が「3月14日連合」勢力を率いるスンナ派組織「ムスタクバル潮流」に所属してはいないものの、同連合と密な関係を有していることから、「3月8日連合」勢力の一部議員から「中立」ではないと見なされていることが言われている。事実、3月8日連合側が「挙国一致内閣」(有力政治家・組織がもれなく参加)の樹立を要求する一方で、3月14日連合サイドが実務者中心の「テクノクラート内閣」の樹立を希望する中、サラーム議員は基本的には後者の意向に沿っているようである。

サラーム議員はまた、3分の1を超える大臣が辞任すると当該内閣の崩壊を導くというレバノン憲法第69条の規定に鑑み、政策遂行に際して各勢力に「拒否権」を与えることを意味する閣僚配分に強く反対している。すなわち、レバノンの政治勢力が3月8日連合と3月14日連合、及びその他の「中立的な」勢力から成ると大まかに区分け可能な現況において、新内閣の定員が24名になる可能性が濃厚と言われていることから、どの勢力にも8人を超える閣僚数を与えない(つまり閣僚配分を8人ずつとする)ことで、各勢力単独で内閣崩壊の引き金を引くことが出来ないようにしようと試みている。だが、3月8日連合サイドは8つ以上の閣僚ポストを獲得することに拘っていると報道されている。

加えて、閣僚ポストそのものを巡る対立も顕在化している。レバノンでは伝統的に、内務地方行政相、国防相、財務相、外務在外居住者相の4つが「重要ポスト」とされ、組閣の度に各政治勢力や政治家はこれらポストの割り振りに関心を示すのが通例となっている。他方、レバノン沖合におけるガス田の存在が国際的に注目されるようになっている昨今の状況から、3月8日連合に属するキリスト教組織「自由国民潮流」出身のバーシール・エネルギー・水資源相の留任に対して、3月14日連合側が難色を示していると伝えられている。また、3月8日連合を率いるシーア派組織「ヒズブッラー」が運営している「私的な」固定通信回線網の取り扱いに対して、同連合と3月14日連合が見解を異にしているから、ヒズブッラーは3月8日連合出身者が引き続き、通信相のポストに就任することを希望している。

なお、ヒズブッラーのナスルッラー書記長は4月30日にビデオ・スクリーンを通じての演説を行った際に、シリアのアサド政権を改めて擁護した。更に、ヒズブッラーの戦闘員がシーア派保護のために、今後もシリア領内でアサド政権側に加担する形で行動する旨表明した。これに対してはシリア反体制派を支援している3月14日連合、とりわけムスタクバル潮流が批判を高めており、ハリーリー代表は5月2日にナスルッラー演説を非難する声明を発した。

※ 写真:2013年4月撮影
ベイルート・アメリカン大学正門近くにある、レバノン風サンドイッチの有名店。
店名の通り、タウーク(鶏肉の串焼き)サンドが大人気。

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