レバノン週報(2013年9月23日〜2013年9月29日)
レバノンは今週になって急に秋らしい気候となり、週半ばには9月としてはきわめて珍しく一時的に豪雨となった。故に、今年は例年よりも冬が早く訪れるとの観測が出ている。
さて、4月に首相職に任命されたサラーム議員による組閣努力は今週も大きな進展を見せなかった。レバノンの政治地図が大まかには「3月8日連合」勢力と「3月14日連合」勢力に二分される状況にあって、サラーム議員は自らやスライマーン大統領、ジュンブラート「進歩社会主義者党」党首らを「中立勢力」として想定し、これら三勢力の獲得ポスト数が同数(8)になる24人内閣を想定している。 だが、3月14日連合サイドがこの構想を概ね了承しているのに対して、3月8日連合サイドは議席数に見合ったポスト配分を要求するという形で反対を表明している。
こうした中で、サラーム議員による構想を支持しているスライマーン大統領は9月27日に改めて、速やかな内閣の樹立に向けて自らやサラーム議員と協力するよう政治組織に対する呼びかけを行った。他方、ジュンブラート議員が26日に、サラーム議員の構想に対する支持撤回を表明したことは、内閣樹立プロセスに波紋を投げかけることになった。なお、ジュンブラート議員の言動は3月8日連合を率いるシーア派組織「ヒズブッラー」との対立を恐れたためであると見られている。
そのヒズブッラーに関しては、構成メンバーが南ベイルートにおいて政府の許可なくチェック・ポイントを設置し、身分証の提示を求めるなどしていることに批判が高まっていたが、9月20日にシャルビル内務相が発表した通り、今週初めからレバノン国軍及び警察部隊による警備が開始された。ヒズブッラーから政府への治安任務に関する「権限移譲」が迅速かつスムーズに南ベイルートで行われたことに関しては、レバノン各方面から評価されたが、とりわけヒズブッラーによる「国家内国家」とでもいうべき治安措置に懸念を表明していたスンナ派組織「ムスタクバル潮流」から歓迎された。他方、ヒズブッラーは南ベイルートや南レバノンと並び、強い影響力を持っているレバノン東部の観光都市バアルベックにおいてもこうした治安措置を講じていたが、地元のスンナ派組織との衝突で死傷者が出たのを契機に、9月29日からレバノン国軍がヒズブッラーに代わってチェック・ポイントで権限を行使するようになった。
このように、スライマーン大統領の意向もあって、レバノンでは治安維持にとりわけ国軍が果たす役割が大きくなっている。だが、レバノン国軍がシリアとの国境警備や国内の治安維持といった任務を遂行するに当たり、その装備が充分ではないとスライマーン大統領は認識しており、国連総会出席のためにニューヨークを訪れていた同大統領は訪問最終日の9月26日に、国軍に対する支援強化をヘーゲル米国防長官との会談の席上要請した。
※ 写真:2013年9月撮影
9月にしては珍しく豪雨となったベイルート。弊センターから撮影。
レバノン週報(2013年9月16日〜2013年9月22日)
シリアの化学兵器を一先ず国際管理下に置き、最終的にはその破棄を求めるロシア提案に対しては、シリア国内の現況並びに同国の貯蔵量からして「非現実的」との批判も出ている。だが、アサド政権が同提案を受け入れた上に欧米諸国も支持している状況においては、米国とフランスによる近日中の対シリア攻撃の可能性が殆どなくなったことから、レバノンの報道も再び自国が抱えるイシューを中心に取り上げるようになった。
そのうちの一つである内閣形成に関しては今週も進展が見られなかったが、スライマーン大統領は9月17日に、速やかな内閣樹立を実現するためにポスト数の要求などを緩和するように政治勢力に求めた。レバノンの政治地図が大まかには「3月8日連合」勢力と「3月14日連合」勢力に二分される状況にあって、サラーム議員(4月に首相職に任命)は自らやスライマーン大統領らを「中立勢力」として想定し、これら三勢力の獲得ポスト数が同数(8)になる24人内閣を想定している。この構想はスライマーン大統領によって支持され、また3月14日連合サイドからも概ね了承されており、事実同連合の重鎮であるシニオーラ元首相は22日に、サラーム議員による内閣構想を受け入れる意向であることを明言した。しかしながら、3月8日連合の主流組織であるシーア派組織「ヒズブッラー」とキリスト教組織「自由国民潮流」は議席配分に見合ったポスト数を要求しており、ハリール氏(ヒズブッラー指導者であるナスルッラー書記長の政治アドバイザー)は自由国民潮流を率いるアウン党首との会談後の18日に、各勢力が同数のポストを得るというサラーム議員の構想を受け入れない旨改めて言明した。
さて、ヒズブッラー・メンバーが南ベイルートにおいて政府の許可なくチェック・ポイントを設置し、身分証の提示を求めるなどしていることは先週に報告した通りであるが、このことは今週に入って更に報道で大きく取り上げられるようになった。と言うのも、ベイルート国際空港近辺から首都の東部地域(キリスト教徒が多い)を結ぶ幹線道路も南ベイルートを通っており、故に同地区の住民以外もヒズブッラー支配地区を通過するという状況にあることから、交通渋滞の発生も含めて問題視されるようになったのである。こうした中で、既に先週の9月11日に私的な治安措置には反対する旨の声明を発していたシャルビル内務相は16日に、今度はヒズブッラーを名指しで非難した。その後シャルビル内務相は20日に、レバノン国軍及び警察部隊が来週以降に南ベイルートへ派遣される旨発表した。ヒズブッラーのラアド議員は先週既に、政府組織による南ベイルートでの治安措置実施を求めていたことから、ヒズブッラーから政府への「権限移譲」は速やかに実施されるであろう。ただし、シャルビル内務相は国内の治安状況並びにシリア情勢に鑑み、レバノン国軍・治安部隊を南ベイルートへ派遣する余裕はないとの認識をこれまでに示していたことから、地の利を有するヒズブッラーに南ベイルートの治安は任せておいた方が、レバノン全体の安全にとっては良いことだったのかもしれない。
レバノン週報(2013年9月9日〜2013年9月15日)
アサド政権が8月21日に化学兵器を用いて1400名以上の自国民を殺害したと欧米諸国が見なす中、とりわけ米国とフランスはシリアに対する懲罰的な軍事行動の早急な実施を求めてきた。しかしながら、今週になってロシアがシリアの化学兵器を国際管理下に置くことを提案し、またアサド政権が同提案を受け入れた上に欧米諸国がこうした動きを歓迎したことから、シリアに対する攻撃が近日中に実施される公算はかなり低くなった。欧米が行動に出た場合には、地中海に展開する艦船から発射されるミサイルがレバノン上空を通過することになるために、同国内は先月後半から沈痛な雰囲気となり一部外国人の退去も見られたが、週後半になって街の活気が徐々に戻ってきた。
こうした中で、レバノンでは4月に首相職に任命されたサラーム議員による組閣努力に再び注目が集まるようになっている。レバノンの政治勢力が大まかには「3月8日連合」勢力と「3月14日連合」勢力に二分される状況にあって、サラーム議員はこれら二大勢力に加えて自らやスライマーン大統領らを「中立的な」勢力として想定し、閣僚ポストの配分に取り掛かろうとしている。そして、新内閣の定員が24名になることには大まかな合意が成立している中にあって、各勢力による獲得ポスト数が8になることに対してサラーム議員やスライマーン大統領、更に3月14日連合サイドは概ね了承している。だが、3月8日連合サイドは議席配分に見合ったポスト数を要求しており、とりわけ「中立的な」勢力と同数のポストになることに強く反発している。
なお、この各勢力が同数のポストを獲得するという案には、3分の1を超える大臣が辞任すると当該内閣の崩壊を導くというレバノン憲法第69条の規定に鑑み、政策遂行に対してどの勢力にも「拒否権」を与えないというサラーム議員、さらにはスライマーン大統領の意向が強く反映している。事実、スライマーン大統領は9月10日に改めて、「拒否権」の付与に反対の意向を表明した。
他方、新内閣の樹立が遅れていることはシリア情勢の影響を受ける形での治安の悪化が生じているレバノンにおいて憂慮される傍ら、政治組織が自らの影響力の強い地域を自前で警備することを正当化することに繋がっている。とりわけ、3月8日連合の中核を担っているシーア派組織「ヒズブッラー」は、支配地域である南ベイルートにロケット弾が打ちこまれ、また自動車爆弾が爆発するなどの事件が生じたために、同地区において政府の許可なくチェック・ポイントを設置し、身分証の提示を求めるなどしている。この結果、9月13日にはレバノン人ジャーナリストがヒズブッラー・メンバーによって一時的にせよ身柄を拘束される事件が生じた。ヒズブッラーの措置は南ベイルートの治安維持には貢献しているものの、同地区の往来に交通渋滞の発生を含め問題を生じさせていることから、3月14日連合側からの非難を招いている他、シャルビル内務相は11日に私的な治安措置に反対する旨の声明を発した。
※ 写真:2012年12月撮影
弊センター正面にあるサン・ジョージ教会で執り行われたレバノン国軍関係者の葬儀風景。
周辺はものものしい警戒状況であった。
レバノン週報(2013年9月2日〜2013年9月8日)
欧米諸国は、アサド政権が8月21日に化学兵器を用いて1400名以上の自国民を殺害したと見なすのみならず、同政権が今後こうした行為を出ることを阻止すべくシリアに対する懲罰的な軍事行動の早急な実施を計画している。英国は8月29日に、議会の決定を受けて対シリア攻撃に参加しないことになったが、米国とフランスは依然として攻撃に着手する構えを見せていることから、レバノンでは自国の先行きに関する不安が高まっていると共に、様々な政治的な動きが生じている。
シリア情勢に対する「非関与政策」を掲げているスライマーン大統領は9月4日に、シリアにおいて化学兵器が使われたことを非難する一方、米国主導の攻撃には反対との立場を明らかにした。また、「反アサド」の「3月14日連合」勢力が攻撃に対する支持を表明する一方、「親アサド」の「3月8日連合」勢力は攻撃に強く反対している。3月8日連合サイドの主軸を成すシーア派組織「ヒズブッラー」はとりわけ強硬な姿勢を見せており、同組織の議会会派は5日に、米国による攻撃はテロに相当するとの声明を発した。
他方、米国の攻撃が実施された場合におけるヒズブッラーの出方がレバノン内外で論議を呼んでいる中、ナスルッラー書記長は同組織の重要な後ろ盾であるイランの政府関係者と会談した模様である。また、イランとシリア、ヒズブッラーが共同軍事作戦室を設置したとの報道や、ヒズブッラーが数万人の戦闘員を動員しているとも言われており、シリア攻撃が実施された場合に、ヒズブッラーが対イスラエル攻撃に着手しないとは言い切れない状況となっている。
こうした中で、米国は大使館前でシリア攻撃に反対する抗議活動が展開されていることと相俟って、一部の大使館員の引き揚げを開始した。また、その他の欧米人も個人レベルで退避を始めている模様であるが、ベイルート市内において特に変わったことはない。なお、9月8日には「親アサド」の「シリア民族社会主義者党」が弊センターのある「ダウンタウン」で米国に対する抗議活動を行ったが、多く見積もっても200人程度が参加した小規模なものであった。一部の参加者は車にシリア国旗を掲げてセンター周辺の道路で示威行動を取ったが、人々の反応は大変冷ややかであった。